被と披の使い分け

漢字の学び直し

「被」と「披」の違いが5分でわかる成り立ちと覚え方

「ひがい」の「被」と「ひろう」の「披」。

形がそっくりなこれらの漢字を見て、「あれ、どっちがどっちだっけ?」と迷った経験はありませんか?

「帽子をかぶる」は「被る」なのに、「結婚のひろうえん」は「披露宴」。どうも紛らわしいですね。

この違いを理解するには、それぞれの漢字の成り立ちと、カギとなる「部首」に注目するのが一番の近道です。

この記事では、二つの漢字に共通するルーツや決定的な違い、迷わないための暗記法を紹介します。

似ている漢字「被」と「披」の基本的な意味と成り立ち

「被(ヒ)」と「披(ヒ)」がこれほどまでに形が似ているのは、共通のルーツを持っているからです。それは、二つの漢字に共通して含まれている「皮」というつくりに秘密があります。

この「皮」が持つ元々の意味を理解することが、二つの漢字を区別する第一歩です。

さらに、この共通のつくりに、「ころもへん」や「てへん」という異なる部首が加わることで、それぞれの漢字が持つ「覆う」「受ける」や「開く」「広げる」といった、全く異なるコアな意味に分かれていきました。

まずはこの成り立ちから、それぞれの漢字の基本的な役割を整理していきます。

共通のつくり「皮」が持つ二つの意味

「被(ヒ)」と「披(ヒ)」、この二つの漢字がなぜ似ているのかというと、どちらも共通して「皮」という部分を持っているからです。この「皮」こそが、すべてのルーツ(起源)となっています。

漢字の成り立ちを調べると、「皮」はもともと「動物の皮を手で剥ぎ取る様子」を表す象形文字から来ています。

ここから、「皮」には二つの基本的な意味が生まれました。一つは「剥ぎ取った皮で体を覆う(おおう)」という意味。もう一つは、「皮を剥ぐ(はぐ)」という動作から派生した「ひらく・広げる」という意味です。

このように、「皮」自体が「覆う」と「開く」という正反対の二つの意味を含んでいたため、後に部首(ぶしゅ)が加わることで、「被」と「披」という、意味がはっきりと分かれた漢字が生まれたのです。

部首が決定づける「被」と「披」のコアな意味

共通のつくりである「皮」が持つ「覆う」と「開く」という二つの意味。これを最終的にどちらの意味にするか決定するのが、漢字の左側にある部首です。部首は、漢字全体の意味の方向性を決定づける、非常に重要な役割を持っています。

まず「被」について見てみます。「皮」の左側にある「ころもへん」は、衣服や布を表す部首です。布は体を覆います。この「覆う」という動作や状態が強調され、「被る」や「覆う」、そこから転じて「何かを受ける(こうむる)」という意味を持つようになりました

次に「披」です。「皮」の左側にある「てへん」は、「手」に関する動作を表します。この「手」を使って、覆われているものや皮を開く・広げるという動作が強調されました。そのため、「披」は「開く」や「打ち明ける」といった意味を持つようになりました

【使い分け】「被る(こうむる)」と「開く(ひらく)」の明確な違いと例文

「被」と「披」の成り立ちの基礎を理解したところで、いよいよ最も重要な「使い分け」に入ります。

多くの人が迷うのは、音読みが同じ「ヒ」であること、そして訓読みも「かぶる」「ひらく」という似たような動作を含むように見える点です。

しかし、この二つの漢字が持つ意味の方向性は、実は正反対だと言っても過言ではありません。「被」は「何かを受ける」または「覆う」という動作に、「披」は「自ら開く」または「広げる」という動作に特化しています。

この明確な違いを、具体的な熟語や例文を通して確認し、日常生活での使い方をマスターしていきましょう。

「被」の持つ「受身」と「覆い」の用法

「被」という漢字は、「ころもへん」が示すように、もともとは「服や布で体を覆う」という意味から来ています。この「覆う」という物理的な動作が、「被」の持つ二つの大きな用法に繋がっています。

一つ目は、「覆いかぶさる」という用法です。これは、「被服」や「被り物」のように、何かを包み隠したり、身に着けたりする意味で使われます。

そして二つ目が、「受身」の用法です。これは、「上から何かをかぶせられる」という状態から転じて、「誰かから行為や影響を受ける(こうむる)」という意味になりました。この用法こそが、日常で最も多く使われます。

「被」は、主体(しゅたい)ではなく、外部からの影響を受ける側を示すときに使うと覚えておきましょう。

「披」の持つ「開く」と「打ち明ける」の用法

「披」という漢字は、「てへん」が示すように、「手を使って何かを開く、広げる」という動作が基本です。前の「被」が「受ける」という意味だったのに対し、「披」は「自ら働きかけて開く」という能動的な意味を持っています。

この「開く」という動作が、大きく二つの用法に発展しました。

一つ目は、「開いて見せる、公にする」という用法です。これが「披露」という熟語に使われます。「新しいものを開いて(披)、広く世間に露(あらわ)す」という意味で、発表会や結婚式などで使われます。

二つ目は、「心の中を開く、隠さずに打ち明ける」という用法です。これが「披瀝(ひれき)」という熟語に使われます。「心の中を開いて(披)、真実を注ぎ出す(瀝)」という意味で、自分の考えや心情を隠さず伝える際に使われます。

「披」は、自ら能動的に物事や心を「開く」側を示すときに使うと明確に区別できます。

迷わない!部首で覚える「被」と「披」の簡単暗記法

「成り立ち」と「使い分け」を学んでも、いざ文章を書くときに「あれ、どっちの部首だっけ?」と混乱してしまうことはよくあります。

しかし、「被」と「披」の使い分けは、暗記のための強力なヒントをすでに持っています。それが、それぞれの漢字に付いている部首です。

漢字の部首は、単なる記号ではなく、その漢字が持つ意味のカテゴリを示す役割を持っています。

ここでは、「ころもへん」と「てへん」が表す意味と、漢字のコアな意味を直感的に結びつける、シンプルなイメージ連想暗記法をご紹介します。この覚え方を使えば、もう二度と迷うことはなくなるでしょう。

『ころもへん』は服!「被る」に直結するイメージ暗記法

「被(ヒ)」の部首である「ころもへん」を見た瞬間に、「被る(こうむる)」の意味が思い出せるようになる暗記法をご紹介します。

漢字の部首「ころもへん」は、その名の通り「衣」、つまり「服」を表しています。

イメージしてみてください。私たちは、コートや帽子などの服(衣)を上からかぶって、体を覆いますよね。この「服をかぶる」という動作をそのまま「被」の漢字に結びつけて覚えるのです。

服を「被る」→「被」の漢字には「ころもへん」が付く。

このようにイメージすると、「被」の持つ「覆う」「かぶる」という意味や、そこから派生した「災いや影響を受ける(こうむる)」という受身(うけみ)の意味も、服を身にまとうイメージと簡単に結びつきます。

「ころもへん=服=覆う」とセットで覚えてしまえば、もう「被」の使い道に迷うことはありません

『てへん』は動作!「手で開く」連想暗記法

続いて、「披(ヒ)」の部首である「てへん」を使った暗記法です。「てへん」は、「手」に関するあらゆる動作を示す部首です。

この「手」をイメージに使うと、「披」の持つ開くや広げるという意味が簡単に頭に入ります。

想像してみてください。あなたは今、布で覆われた箱や、まだ閉じたままの巻物を持っています。それらを「手」を使ってグッと力を込めて「開く」動作、これが「披」の持つ意味と直結します。

「てへん=手=手で開く」と連想しましょう

こうすることで、「披露」のように「手で開いて見せる(広げる)」という意味や、「披瀝」のように「心を手で開いて打ち明ける」という意味が、具体的な手の動作として覚えられます。物理的な行動も、心情的な行動も、「手で開く」というイメージで完璧に区別できるようになります。

よくある疑問

「被る」の読み方には「かぶる」と「こうむる」がありますが、どう使い分けるのですか?

「被る」には、主に「かぶる」と「こうむる」という二つの読み方があります。
かぶる: 物理的に頭や体の上に何かを載せて覆う動作(例:帽子を被る、水や泥を被る)。
こうむる: 抽象的(ちゅうしょうてき)に、行為や影響、特に災難や恩恵を受けること(例:被害を被る、恩恵を被る)。
現代の文章では、受身の意味で「こうむる」を使うことが一般的です。

「披露」と「披瀝」はどちらも「披(ひら)く」という意味ですが、違いはありますか?

どちらも「開く、打ち明ける」という意味で使われますが、対象に違いがあります。
披露(ひろう): 新しいものや技術、結婚など、事実や情報を世間に広く公表すること(例:新製品を披露する、結婚披露宴)。
披瀝(ひれき): 心の内にある考えや心情を、包み隠さずに打ち明けること。より個人的で深い内容に使われます(例:胸中を披瀝する)。

「被」を使った熟語の中で、「受身」の意味にならないものはありますか?

「被」が持つ元の意味である「覆う」「着る」という意味が残っている熟語です。例えば、「被写体(ひしゃたい)」は「写真に写される対象」という意味で、受身の意味ですが、「被膜(ひまく)」は「表面を覆っている薄い膜」という意味で、「受ける」というより「覆うもの」という名詞として使われています。

まとめ

この記事では、形が似ていて間違えやすい「被」と「披」の使い分けについて解説しました。この二つの漢字を区別するポイントは、漢字の成り立ちと部首にあります。

大切なポイントをもう一度確認しましょう。

  1.  成り立ちの共通点:
    どちらも「皮」というつくりを持ち、「覆う」または「開く」という両方のルーツ(起源)を持っています。
  2.  部首による役割分担:
    「被」は、「ころもへん」がついているため、「服で体を覆う」という動作から、「災いや影響を受ける(こうむる)」という意味に特化しました(例:被害、被告)。
    「披」は、「てへん」がついているため、「手で開く」という動作から、「広げる」「打ち明ける」という意味に特化しました(例:披露、披瀝)。
  3.  簡単暗記法:
    部首をヒントに、「ころもへん=服で覆う=受ける」と「てへん=手で開く=広げる」という連想で覚えることができます。

この簡単な法則さえ覚えておけば、「被る」と「披く」を混同することはなくなります

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