徹と撤の使いわけ

漢字の学び直し

迷わない「徹」と「撤」の使い分け!成り立ち・例文・覚え方を網羅

「てつ」と読む漢字、「徹」と「撤」。

「徹夜」と「撤去」、「初志貫徹」と「撤退」など、ビジネス文書やニュースで見かける機会が多いにも関わらず、どちらを使えばいいのか迷った経験はありませんか? 見た目もそっくりなので、つい「この場合はどっちだ?」と手が止まってしまいがちです。

部首が「ぎょうにんべん」と「てへん」で違うのはわかるけれど、なぜこの二つが似た字形になり、意味が正反対になるのか、という根本的な疑問を持っている人も多いはずです。

そこでこの記事では、「徹と撤の使い分けで二度と迷わない」を目標に、以下の3つのポイントを徹底的に解説します。

  • 漢字の成り立ち:なぜ似ているのか?(部首の意味)
  • 具体的な使い分け:例文付きで「貫く徹」と「取り去る撤」を整理
  • 確実な覚え方:部首の動きで覚える視覚的な記憶術

この記事を最後まで読めば、もう「てつ」の文字選びで悩むことはありません。それぞれの漢字の深い意味まで理解し、自信を持って使いこなせるようになりましょう。

「徹」と「撤」の決定的な違いは部首と意味にある

一見すると「徹」と「撤」は、部首(へん)以外は全く同じ漢字に見えます。

実は、二つの漢字に共通する右側の部分「育」と「攵(ぼくづくり)」には、「ものの通りをよくする」という共通の成り立ちがあるため、字形がよく似ているのです。

しかし、この漢字が持つ最終的な意味は正反対。これは、左側の「部首(へん)」が持つ意味が、文字全体の意味を決定づけているからです。

このセクションでは、まず二つの漢字がなぜ似ているのか、そして、それぞれの部首である「ぎょうにんべん(彳)」と「てへん」が持つ意味が、どうやって「貫く(とおる)」と「取り除く」という決定的な違いを生み出しているのかを、分かりやすく解説します。

「徹」と「撤」の決定的な違い

似ている字形!「育(いく)」と「攵(ぼくづくり)」に共通点あり

「徹」と「撤」は、左側の部首(へん)だけが異なり、右側の「つくり」が共通しています。この共通する「つくり」こそが、二つの漢字が似ている理由です。

この「つくり」は、「育(いく)」と「攵(ぼくづくり・動作を表す記号)」が組み合わさった形からできています。もともと漢字の「育」には、「子供が産道(さんどう)を通るように物事が通り抜ける」という意味があります。

この「通り抜ける」というイメージに、「動作」を表す「攵」が加わることで、「ものの通りをよくする」という共通の「根」を持つことになります。

つまり、「徹」と「撤」は、どちらも「何かがスムーズに通る・通りを良くする」という基本的な意味を共有しているのです。この共通の「通りを良くする」というイメージに、左側の部首が持つ「手(てへん)」や「歩き(ぎょうにんべん)」という役割が加わることで、「取り除く」や「貫き通す」という、最終的な意味の違いが生まれています。

首に注目!「ぎょうにんべん」と「てへん」が意味を分ける

「徹」と「撤」の字形の共通点を見たところで、次は、なぜ意味が正反対になるのか、その決定的な理由である「部首(へん)」に注目しましょう。

まず「徹」に使われている「行人偏(ぎょうにんべん)」は、「人や道、歩くこと、行くこと」に関係する部首です。「歩く」という動作から、「道を通る」「突き進む」といった「貫き通す」イメージが生まれます。これが「徹(とおる)」という意味に繋がっているのです。

一方、「撤」に使われている「手偏(てへん)」は、文字通り「手」に関する動作を表します。「手で持つ」「手で動かす」といった意味から、「手を使って物を取り除く」「場所から引き上げる」という動作に結びつきます

このように、共通の「通りをよくする」というイメージに、「歩き通す」ための(ぎょうにんべん)がつけば「徹」に、「手で取り扱う」ための(てへん)がつけば「撤」になる、と理解しておきましょう。

【使い分け】「貫き通す/通る」の徹と「取り除く/引き上げる」の撤

前のセクションで、部首(へん)の違いが「徹」と「撤」それぞれの根本的な意味を形作っていることがわかりました。ここからは、その意味を基に、実際の言葉の中でどのように使い分けられているのかを見ていきましょう。

「徹」は「徹底(てってい)」や「徹夜(てつや)」のように、一つのことを最後まで貫き通す、または隅々まで通るという意味で使われます。

一方、「撤」は「撤去(てっきょ)」や「撤退(てったい)」のように、そこから取り去る、引き下げるという動きを表します。

このセクションでは、それぞれの漢字が持つ意味を代表的な熟語と具体的な例文を通じて整理し、どのような場面でどちらを使えば正しいのかを実践的に理解していきます。

「徹」は「貫く・通る・とことん」:熟語と例文で理解する

「徹」は「貫く・通る・とことん」

「徹(てつ)」の基本的な意味は、部首の「行人偏(ぎょうにんべん)」が示すように、「道を通るように最後まで貫き通す」または「隅々まで行き届く」ことです。何かをとことんやり抜く、という強い意志や継続性を伴う場面で使われます。

この意味を理解すると、よく使う熟語の使い分けがはっきりします。

【「徹」を使った熟語と例文】

  1.  徹夜(てつや):夜通し(夜が明けるまで)一つのことをやり通すこと。
    例文: 「試験勉強のため、彼は徹夜でレポートを完成させた。」
  2.  徹底(てってい):隅々まで行き届かせ、手を抜かないこと。
    例文: 「安全管理を徹底するため、マニュアルの読み合わせを行った。」
  3.  初志貫徹(しょしかんてつ):最初に心に決めた志(目標)を、最後まで貫き通すこと。
    例文: 「困難な状況でも、彼は初志貫徹の精神で夢を実現させた。」
  4.  冷徹(れいてつ):感情に流されず、冷静に物事を見極める様子。
    例文: 「その経営者は、冷徹な判断力で会社を危機から救った。」

これらの熟語から、「徹」は「途中でやめない」「深く染み通る」という、持続性や浸透のイメージとセットで使われることがわかります。

「撤」は「取り去る・引き下げる」:熟語と例文で実践する

「撤」は「取り去る・引き下げる」

「撤(てつ)」の基本的な意味は、部首の「手偏(てへん)」が示すように、「手を使って取り去る」または「元の場所から引き下げる」ことです。何かをその場から無くす、取り消す、という後退や除去のイメージで使われます。

「徹」が「やり通す」という前向きなイメージなのに対し、「撤」は「やめる」「引く」といった否定的な状況や動作に使われるのが大きな特徴です。

【「撤」を使った熟語と例文】

  1.  撤去(てっきょ):邪魔なもの、不要なものを取り除いて捨てること。
    例文: 「安全のため、倒壊の危険がある古い看板を撤去した。」
  2.  撤回(てっかい):一度出した意見や発言、決定などを取り消すこと。
    例文: 「誤解を招く発言だったため、すぐに記者会見で撤回した。」
  3.  撤退(てったい):その場所から引き上げて退くこと。
    例文: 「市場の環境が悪化したため、その国からの事業撤退を決めた。」
  4.  撤廃(てっぱい):制度や規則などを取り去ってやめること。
    例文: 「古い慣習は、時代に合わせて撤廃されるべきだ。」

これらの熟語から、「撤」は「あるものや状態を無くす」「退く」という、除去・後退の動作とセットで使われることがわかります。

もう迷わない!部首と意味で覚える「徹」と「撤」の記憶術

これまで「徹」と「撤」の意味と使い分けについて学びましたが、いざ文章を書こうとしたとき、「てへん」と「ぎょうにんべん」のどちらだっけ?と、まだ不安が残る人もいるかもしれません。

漢字を完璧に覚えるには、意味や熟語を丸暗記するよりも、部首(へん)が持つ「動き」や「役割」と漢字の意味を結びつけて覚えるのが最も効果的です。

このセクションでは、それぞれの部首が持つイメージを利用した、実践的な記憶法を紹介します。また、見た目だけでなく読み方も同じで混同しやすい「轍(てつ、わだち)」もあわせて整理し、3つの「てつ」をすっきり区別できるように知識を定着させましょう。

視覚的に整理!部首を動きで連想する覚え方

「徹」と「撤」の知識を頭に入れたら、次は実際に文字を書くとき、一瞬で正しい方を選べるようにする「記憶のコツ」を身につけましょう。

一番良い覚え方は、それぞれの部首(へん)が持つ具体的な動きをイメージに結びつけることです。

  1.  「徹」は「歩き通す」で覚える
    「徹」の部首である「行人偏(ぎょうにんべん)」は、人が歩く様子を表しています。この形から「道を行く」「突き進む」という動きを連想し、「徹」=「人が道を貫き通す」と覚えます。
    「徹夜」は夜通し歩き通すイメージ、「初志貫徹」は志を歩き通すイメージと結びつければ、記憶に残りやすくなります。
  2.  「撤」は「手で取り除く」で覚える
    「撤」の部首である「手偏(てへん)」は、「手」に関する動作を意味します。この形から「手を使う」「手で片付ける」という動きを連想し、「撤」=「手でごみを取り除く」と覚えます。
    「撤去」は手で物を取り除く動作、「撤回」は手で発言を引っ込める動作と考えると、迷うことがなくなります。

これらの具体的な動作と部首を結びつけることで、視覚的にもスムーズに使い分けられるようになります。

混同しやすい「轍(わだち)」との違いで定着させる

「徹(てつ)」と「撤(てつ)」の使い分けを完全にマスターするために、もう一つ似た漢字である「轍(てつ)」との違いも確認し、知識をさらに定着させましょう。

「轍」も「てつ」と読み、右側の「つくり」が「徹」「撤」と同じです。しかし、部首が「車偏(くるまへん)(車)」であるため、意味は全く異なります。

轍(わだち):「車(車)」が道を「通った跡」のこと。

この「轍」は、「前の車の轍を踏む(まえのくるまのわだちをふむ)」という慣用句(かんようく)でよく使われます。これは「前の人が失敗したのと同じ失敗を繰り返す」という意味です。

このように、同じ「てつ」と読む漢字でも、その意味は左側の部首によって次のように決まります。

漢字 部首 部首の意味 漢字全体のイメージ
行人偏(彳) 人が歩く 貫き通す、通り抜ける
手偏 で扱う 取り除く、引き下げる
車偏(車) 車輪の跡、わだち

「徹」と「撤」についてのよくある質問

「徹」と「撤」の読み方は「てつ」以外にありますか?

どちらの漢字も音読みは「テツ」のみです。ただし、「徹」には訓読みとして「とお(る)」や「とお(す)」があり、「撤」には訓読みがありません。例えば、「物音が骨身に徹する(ほねみにてっする/しんとうる)」や「寒さが身に徹る(みにとおる)」のように、「とおる」と読む場合には必ず「徹」を使います。

「徹する」と「撤する」という使い方はしますか?

どちらも「〇〇する」という形で使います。
「徹する」は、ある一つのことだけをやり抜く意味で使われ、「裏方に徹する」「指導に徹する」といった表現が一般的です。
一方、「撤する」は、熟語ではなく単独で使われることはほとんどありませんが、「撤去する」「撤退する」といった熟語の意味(取り除く、引き下げる)で使われます。

「概(がい)」と「慨(がい)」のように、見た目が似ていて部首で意味が変わる漢字は他にもありますか?

はい、多くあります。ご質問にあった「概(おおむね)」と「慨(なげく)」のように、右側の「つくり」が共通していても、部首(へん)が変わることで意味が全く変わる漢字は多数存在します。
例えば、「稼(かせぐ)」と「嫁(とつぐ)」は、共通の「家」に「のぎへん(稼)」(=穀物)がつくと「稼ぐ」に、「おんなへん(嫁)」(=女性)がつくと「嫁ぐ」になる、という例もよく知られています。

まとめ

この記事では、「徹(てつ)」と「撤(てつ)」の二つの漢字について、なぜ間違えやすいのかという疑問の答えから、実際の使い分け方までを詳しく解説しました。

最も大切なポイントは、左側の「部首(へん)」が意味を決めているという点です。

「徹」は、部首が「行人偏(ぎょうにんべん)」で、人が「歩き通す」イメージです。意味は「貫き通す」「隅々まで行き届く」となり、「徹夜」「徹底」「初志貫徹」などの熟語に使われます。

「撤」は、部首が「手偏(てへん)」で、「手で取り扱う」イメージです。意味は「取り去る」「引き下げる」となり、「撤去」「撤退」「撤回」などの熟語に使われます。

また、部首の動きを「徹=人が歩き通す」、「撤=手で取り除く」と連想して覚えることで、漢字を書くときも迷わなくなります。

これらの知識を活用すれば、ビジネスシーンでも、日常の文章でも、自信を持って正確に「てつ」の漢字を使いこなせるようになるはずです。

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